経営/グローバル

製造業におけるサービス化のメリットについて

モノを「売る時代」から「提供する時代」へ。サービス化の波は想像以上に加速しており、特に世界の製造業においては急務の課題と言えます。本稿では、製造業に焦点をあて企業がサービス化に取り組む理由やメリットについてご紹介します。

製造業におけるサービス化のメリットについて

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そもそも「サービス化」とは何なのか?

製造業のサービス化といっても、あまりピンと来ない方もいらっしゃるのではないでしょうか?まずはサービス化(サービタイゼーション)とはそもそも何なのかをご説明します。

従来の製造業では企画開発にて製品を設計し、生産し、そして小売を通じて消費者に対して製品を販売します。このサイクルは不可逆なものであり、製造業におけるサプライチェーンは「製造→小売→消費者」のような流れが一般化されています。

近年になり、世界中にモノが溢れる時代になりました。あらゆる製品において代替品が登場し、新興国の台頭などもありコモディティ化が急速に進みます。それに応じて、製品を売るだけではビジネスが成り立たなくなりつつあることも事実です。同じような製品が溢れている世界において、競合優位性を確保するには新しい付加価値を生み出す必要性が生じていると言っても良いでしょう。また、消費者ニーズは多様化していることに加えて、ニーズそのものはモノが欲しいわけではなくその先にある体験が欲しいということもわかりつつあります。

そこでサービス化に注目が集まります。従来はモノとして販売してきた製品を、サービスとして提供すると顧客との継続的な接点が生まれるため、良好な関係性を構築するための双方間コミュニケーションが成り立ちます。さらに、従来よりも継続的に製品を利用してもらうチャンスが増えることでLTV(顧客生涯価値)を向上させ、結果として企業収益を増加させることができるのです。

ここで、サービス化に成功した古野電気株式会社(以下古野電気)の事例をご紹介します。

古野電気は1948年に世界で初めて魚群探知機の実用化に成功して以来、船舶用電子機器分野において独自の超音波技術と電子技術をもとに数々の世界初・日本初の商品を提供し、世界80カ国以上に販売拠点を有するグローバル企業です。

古野電気では、売上高全体の80%を占める海外ビジネスにおいて、陸上事業をいかに成長させるかというのを経営戦略の根底に置き、サービス化に取り組みました。その第一歩となったのが「生化学自動分析装置」のサービス化です。この医療機器は血液中に含まれる脂質や糖分、タンパク質などを自動的に精密測定する装置であり、従来は医療機関に販売し、そこでビジネスは完了していました。

これに対して古野電気は、装置を通じて得られた個人情報をマスキング加工にて個人を特定できない状態にした上でクラウドに蓄積し、それらのデータを分析してSNSと連携しながら新たな付加価値を生み出していきました。また、保守業務では装置の異常を知らせるアラートを受け取れるようにし、その情報はいち早く営業担当者のスマートフォンに通知されます。現場に駆けつけた営業担当者は装置をスマートフォンカメラで撮影し、SNSを通じて報告するとそれがシステム上に収集され、上司の確認を経てフィールドサービスエンジニアと連携されます。

古野電気では医療機器からのデータ集約とアラート活用によってサービス化に成功しました。ただし、サービス化の例はこれに限定されません。例えばトヨタ自動車が2019年2月にスタートした「愛車レンタルサービス」のKINTOもサービス化の流れを取り入れた自動車のサブスクリプションサービス(定期契約で製品を利用するサービス)です。

サービス化のメリット

では製造業がサービス化に取り組むメリットとは果たして何なのでしょうか?

メリット1.消費者との継続的なコミュニケーションが可能

製造業のサービス化は前述のように、一方通行だった企業→消費者のコミュニケーションが双方間になり、消費者と継続的な接点が持てるようになります。これが何を意味するかというと、従来は見えづらかった製品に対する消費者視点の使用感や満足度が可視化しやすくなり、それに応じて経営戦略を変化させることで、より実態に即した製品展開が可能になります。つまりは、AppleやGoogle等の先進的なデジタル企業が展開しているような、膨大なデータ収集から改良を加えた製品アップデートが可能になるということです。

メリット2.製品に付加価値を生み出せる

サービスを通じて製品に新しい付加価値を生み出せるのもサービス化のメリットです。古野電気の事例のように、製品を販売してビジネスを完了するのではなく、その後のデータ収集と分析を通じて加工された情報の提供や、保守業務に役立てることで今までにない付加価値が生まれます。

メリット3.フィードバックによる製品改善サイクルの最適化

製品に設置されたIoTにより、知り得ることのできなかった情報を大量に取得できます。それに加えて消費者のリアルな声をタイムリーに得られる環境を準備することで製品からのフィードバックは従来の比ではありません。その情報をもとにしながら製品改善サイクルを最適化すれば、さらなる付加価値の創出が可能です。

メリット4.製品技術の向上に頼らない経営戦略

従来は製品技術の向上だけで競合優位性を手にしようとする時代でした。しかし、4Kテレビに代表されるように、必ずしも高い製品性能が市場に受け入れられるわけではありません。サービス化を実現すると、単純に製品技術を向上するのではなく付帯サービスによって新しい経営戦略を展開することが可能になるのです。

メリット5.導入/購入の障壁を低くできる

サービス化は消費者や企業にとって導入/準備にかかる負担を大幅に軽減します。従って、製品の導入/購入の障壁を大きく引き下げて、サービスを利用してもらいやすいビジネス環境が整えられます。

サービス化で留意すべきこと

いかがでしょうか?上記のようにサービス化には様々なメリットがあり、今を生きる製造業にとって欠かせない新しい経営戦略です。ただし、留意すべきこともあります。まず、サービス化は短期的に収益を増大させるような戦略ではなく、中長期的な視点で消費者との関係性構築をはかり、徐々に効果を最大化させていくものです。従って、収益の柱をサービス化に据えた場合、一時的に収益が下がる可能性を意識しなければいけません。

また、サービスを始めやすいことは、辞めやすいことと同義です。単純にサービス化を展開するのではなく「消費者を如何につなぎ止めるか?」の戦略も欠かせません。また、サービス化には情報活用が欠かせないので、新しい業務基盤・情報基盤を構築する必要がある可能性もあります。こうした留意点を念頭に置きながら、この機会に自社製品のサービス化についてぜひ考えてみてはいかがでしょうか。

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