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製造業のテレワークは不可能なのか?改善策の一例

働き方改革や新型コロナウイルスの影響により、テレワークを導入する企業が増え、社員もそのやり方に慣れつつあります。しかし、業種によってはテレワークの導入が難しいケースもあり、その最たる例が製造業です。そこで本記事では、製造業におけるテレワークの実現可能性や、テレワーク導入事例について詳しく解説していきます。

製造業のテレワークは不可能なのか?改善策の一例

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製造業ではテレワークができる職種とできない職種に分かれる

工場を有する製造業で働く社員の職種は、大きく「事務系」「技術系」「技能系」の3つに分かれます。つまり、同じ会社の社員であっても仕事内容には差が大きく、テレワークができる職種とできない職種に分かれる傾向にあるのです。

まず、もっともテレワークが難しいのは、製造現場で組み立てや品質管理などを行っている「技能系」の社員です。社外に部品を持ち出すことは基本的に不可能であり、そもそも工場の設備がなければ仕事になりません。

「技術系」の仕事には設計や商品開発、研究職などがあります。テレワークが可能な業務もありますが、基本的に相性はあまりよくありません。詳しくは後述しますが、情報漏洩や設備の問題など、クリアしなければならない課題が多くあります。

製造業でもっともテレワークしやすいのは、人事や総務など「事務系」の職種です。これらはオフィスワークが中心なので、インターネットにつながっていれば、自宅などでも勤務可能です。さらに、ビジネスチャットやオンライン会議ツール、タスク管理ツールなどを導入すれば、チーム単位でのプロジェクトも推進できます。

製造業でのテレワーク導入の課題

製造業では、「事務系」などの一部の職種を除き、すぐにはテレワークを導入しづらいのが現状です。具体的にどのような課題があるのか、代表的な例を解説していきます。

セキュリティの課題

まずは、セキュリティの問題です。商品開発部門では、まだ世に発表していない新商品の企画や仕様設定などを行っています。企業機密や顧客リストなどの情報漏洩は、企業存続に関わる大失態です。このようなことが起きないよう、テレワークでは情報管理をより一層強化する必要があります。具体的な対策としては、業務プロセスの明確化やルール化、社員教育の徹底などが挙げられます。

たとえば、ネットワーク上でのデータの共有方法を定め、さらに権限を持つ社員しか閲覧できないようにするなどが、その一例です。パソコンやUSBといった端末の持ち出しルールの策定も必須でしょう。

また、テレワークではなおのこと、社員一人ひとりの自己管理能力が問われます。あらかじめ社員教育を実施し、上司がチェックしていない環境でも、セキュリティやコンプライアンスの意識を常に高く保ってもらう必要があります。

労務管理の課題

労務管理もテレワークにおける重要課題のひとつです。企業側からすると、「労働時間を把握しづらく、適切な勤怠管理ができない」のがネックです。テレワークで働く側としても、「仕事とプライベートの切り分けが難しい」「メリハリがつきにくく、長時間労働になりやすい」といった問題が挙げられます。パソコンで業務管理できる職種については、始業や終業、休憩時間を記録でき、さらに給与システムとも連携できる「勤怠管理ツール」を活用するのも効果的です。

もちろん、テレワークにおいても労働基準関係法令が適用されます。つまり、労働基準法などの法令を遵守しながら、企業はテレワークを実施していかなければなりません。在宅勤務などでは、私用による中抜け時間なども想定されるため、その場合の取り扱いについても、あらかじめ就業規則に明記しておく必要があります。

また、テレワークにおけるケガや事故も労災認定の対象です。しかし、私的行為が原因の場合は、労災とは認められません。どこまでがプライベートなのかの線引きが難しい在宅勤務では、認定の判断がより複雑になることが想定されます。

現場業務の課題

テレワークでは、物理的に仕事を行う設備が整わないというのも、製造業ならではの大きな課題です。技能系であれば「工場勤務」「生産・品質管理」、技術系であれば「設計担当」「実験担当」など、いわゆる現場ありきの職種では、テレワークへの移行は極めて困難だと言わざるを得ません。

具体的には、工場の組み立てラインがないと商品を製造できませんし、現場にいないと完成品や試作品などのチェックも行えません。技術系も同様で、専用のツールや設備を要するケースが多いでしょう。たとえばCADのように、複数のソフトを同時に使う作業を効率よく行うためには、大型ディスプレイが必要です。

製造業でも、IoTを活用した「遠隔操作」や「遠隔監視」が普及し始めてはいますが、機械が故障した場合には現場に駆けつけて修理しなければならない、という点がネックになっています。つまるところ、ソフトウェア開発であれば、テレワークへの移行は比較的容易です。しかし、ハードウェア開発となると、工場や専用の機械など大がかりな設備が必要となるため、自宅を就業場所にできないケースが大半なのです。

製造業でのテレワーク導入のポイント

製造業ではテレワークに移行しづらい職種もありますが、事務系など間接部門の職種においては、テレワークの導入は可能です。ここからは、製造業におけるテレワーク導入のポイントについて解説していきます。

業務の見直し

まずは、テレワーク化できる業務の洗い出しを行いましょう。もっともテレワークに移行しやすいのは、パソコンを使って1人でできる単純作業です。会議の資料作りや集計などの作業が、これに該当します。

さらに、工夫すればテレワークできないか、既存業務を見直していくことも大切です。見直しのポイントは、ペーパーレス化・オンライン化の2点です。紙ベースでのやり取りを電子化し、さらにワークフローシステムやオンライン会議システムと組み合わせれば、かなりの業務を在宅でも行えるようになるはずです。

こうした見直しは、業務の効率化・標準化にもつながります。ただし、中には対面で行うほうが効率的だと判断される業務もあるでしょう。そうした業務は、特定の出勤日に集約させるようにすれば、テレワークによる効率化を進めつつ生産性も担保できます。

テレワーク実施頻度

テレワークの実施頻度も決めておきましょう。制度だけ導入して、運用は社員任せといったやり方では、テレワークのような新しい働き方はなかなか浸透しません。たとえば、週に何日程度、何時間まで、どんな場合に許容するのかなど、具体的な運用ルールを示すことが大事です。

また、時短勤務の場合はどうなるか、フレックス勤務は適用されるのかなど、既存のルールとの兼ね合いも、社員としては気になるところです。就業規則に記載するほか、イントラネットに掲載する、詳しい説明を載せた社内報を配布するなど、幅広い方法で全社員に周知徹底しましょう。イラストなどを使って具体的な運用例も記載しておくと、よりイメージが湧きやすくなり、結果的に社員の利用促進につながります。

社員の理解を得る

テレワークの導入には、社員の協力が不可欠です。トップダウンで指示するのではなく、導入の背景や目的などを丁寧に説明し、社員の協力を得ながら進めるようにしましょう。特に製造業の場合、どうしてもテレワークに移行できる職種とできない職種とに分かれてしまいます。部門間で不公平感が生まれないように適宜フォローしたり、テレワークの導入が企業全体にとってどのようなメリットをもたらすかなど、全員で共有したりすることが大事です。

また、テレワークの導入後には、社員がオーバーワークになっていないか、コミュニケーション不足で生産性が落ちていないかなど、管理職がフォローしていく必要があります。社員の反応も窺いながらPDCAサイクルを回していくことで、制度がより実用的なものになっていきます。他社の成功事例を共有するのも、社員の理解を得るために有効な方法のひとつです。

テレワーク移行事例(カルビー株式会社)

食品製造業の「カルビー」は業界内でもいち早く、2014年から「在宅勤務制度」を、2017年から利用日数や場所の制限のない「モバイルワーク制度」を導入してきました。そしてコロナ禍を機に、2020年7月からオフィスワーク勤務者のモバイルワークを標準化させています。

スムーズに移行できた背景には、「全社員に当事者意識をもたせることに成功した」という重要なポイントがあります。トップが詳しく制度の意味や目的などを繰り返し説明したり、アンケートで社員の声を収集したりといった、歩み寄りの姿勢が功を奏した事例です。

モバイルワークの標準化にあたり、既存のフレックス勤務のコアタイムを廃止したり、単身赴任を解除(業務支障がない場合)したりなど、運用ルールをより実用的なものに改善した点も評価されています。

まとめ

製造業では、全部門で一斉にテレワークへ移行するというわけにはいきません。しかし、将来的なリスクヘッジに備えて、テレワークが可能な職種については順次移行させていくべきでしょう。部門間の軋轢を生じさせないためには、トップ自らが導入の目的や会社へのメリットについて全社員に説明し、一体感を醸成しておくことが大事です。

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