開発

PowerAppsは企業でどのように活用すれば良い?海外事例から学ぶアプリ開発の現場

マイクロソフトが提供するローコード開発プラットフォーム「Microsoft PowerApps」は、ポイント アンド クリックの操作でアプリを設計し、素早く構築できるソリューションとして海外はもとより日本国内でも利用者が増えています。

Microsoft PowerApps(以降、PowerApps)は、豊富なテンプレートを基にアプリケーションを作成することも、一から新しくアプリケーションを作成することもできます。また、Excel のような数式を使ってロジックを簡単に追加できます。

PowerAppで作成するアプリケーションは、Dynamics 365のカスタマイズを含むあらゆるデータと簡単に接続でき、それらのアプリケーションは Web、iOS、Android、および Windows 10 向けに発行できるため、俊敏な業務システムの展開が可能になります。

今回はこのMicrosoft PowerAppsがどのように使われているのかを海外事例をもとにご紹介したいと思います。皆様のアプリケーション開発の参考になれれば幸いです。

Microsoft PowerApps はじめてのアプリ開発

Autoglass / Belron Group

Autoglass / Belron Groupは、世界で毎年1,650万人の顧客の車の窓ガラスを修理する整備会社です。事業の拡大に伴って、関連サービスも開始し、現在では16のグループ会社を運営しています。また、世界34カ国に展開し、現在の従業員数は29,000名です。

同社のリー・マーティン氏は、テクニカルPowerAppsソリューションエキスパートです。元々は、現場作業員の出張派遣管理を担当しており、同社では就業6年目です。

独学で簡単に学べるPowerApps

リー・マーティン氏は、PowerAppsは2017年から使い始めています。それ以前のプログラミング経験はなく、ITは独学で習得しました。そのきっかけは、たまたまPowerAppsのブログを見たからで、インターネットの記事などを通して勉強しました。

PowerAppsを活用する以前は、ExcelやAccessなどを使って作業員の出張派遣を管理していました。データベースが連携していなかったので、すべてが手入力で複数箇所における二重の入力が発生し、管理に時間がかかっていました。

そこで、PowerAppsを利用して最初にコールセンターアプリを開発しました。その後、社内学習や人材育成アプリも開発し、以前利用していた他社製品からの置き換えを行うことで3,000万円のコスト削減に成功しました。

複雑なアプリも1〜2週間で作成

マーティン氏が作成したPowerAppsによるアプリケーションは、2017年4月に1つだったものが、2018年3月には40本を超えて、現在は50本に達しています。その結果、社内では「アップマン(APP MAN)」と呼ばれるようになり、マーティン氏はアップマンとして社内で表彰され、より多くの従業員に知られることで、今ではどこでもアプリを作成でき、開発専用の時間を割り当てられるようになりました。

現在では、ガバナンスと統制にもPowerAppsで開発したアプリを活用しています。業務が効率化されただけでなく、簡単にアプリケーションの開発が可能であるため、余った時間を利用して今ではPower BIやDynamics 365などのスキルも習得しています。そして、50以上のアプリが本番稼働し、直近でも15個のアプリを作成中です。最近では「みんながアプリを欲している」状況です。そのアプリは、簡単なものであれば1~2日で素早く簡単に展開し、複雑なものでも1~2週間で開発できるようになりました。

こちらの「Power BIとは」に関する記事で是非ご覧ください。

そんなAutoglass社のソリューション構造は、図のようになっています。

図2

開発者でなくてもアプリを開発できる

PowerAppsの素晴らしい点を次のように述べています。「AndroidやiOS用にブラウザでも動く業務アプリを、専門的な知識がなくても簡単に作れます。また、PowerAppsは簡単に勉強できて、開発者でなくても複雑なアプリが作れ、仕様変更や要件が変わっても、素早く反映できるので助かっています」

同社のIT部門では、「大幅なコスト削減」につながったと評価し、外注で利用していた保守業務アプリを完全に置き換えました。さらに、社内ユーザーが業務ロジックやレポート、フォームを作る体制になったため、IT部門ではより戦略的な業務に集中できるようになりました。

arrivaロンドン

arriva社は、ヨーロッパで最大の公共運送事業者です。14カ国に60,000人の従業員を要し、1年で2.4billionのお客氏を輸送しています。保有するバスの台数は20,750台、電車は1,120両、水上バスが21艘、地下鉄・トラムは312両、車と救急車は712台です。

ExcelとPowerAppsの適材適所

ロンドンでは、1,700台のバスと5,500名の従業員に、112のバス路線に16のバス倉庫、そして103million kmの距離を運行しています。その距離は、1日に地球を6周している計算になります。そんなarrivaロンドンの課題は、紙ベースの申請業務が中心に加えて、Excelによる多くのフォームがあり、VBAを駆使した業務システムが構築されていることでした。そのためデータへのアクセスが困難であるだけでなく新規投資への壁もありました。

そこで同社 キース・ハウリング氏が、PowerAppsの開発に取り組みました。

図3

ハウリング氏は、7歳でパソコンを触り始め、自らをオタクを称し、2002年にインターネット産業のバブルが崩壊したことで、バス運転手となっていました。2004年にバス運行管理係となり、2013年にExcelによる業務改革で社内表彰を受けています。そして、2017年にPowerApps に出会いました。

同社は、PowerAppsにより、今まで作れなかったアプリの開発が可能になることで現場レベルにも現場レベルにもデジタル変革がもたらされました。また、ExcelはExcelに見合ったものに限定することで今までの多くの負担を軽減できました。きっかけは、「そこにあったから」と説明しています。

Power Platformにメリット

ハウリング氏がPower Platformを使い始めた理由は、すぐに活用でき、必要としていたものがすべて揃っていて、非常に簡単に学べて、セキュリティも万全という点でした。

同社のシステム構成は、次のようになっています。

図4

ハウリング氏は、コネクタを活用しています。データベースに直接アクセスできない運行システムを利用するために、APIをカスタムコネクタにして、現場レベルでもPowerAppsでデータを活用できるようにしています。そして、さまざまなシステムを連携させて、Office 365による承認プロセスも利用しています。

ロンドンヒースロー空港

ロンドンヒースロー空港は、2017年に78millionの利用者がある英国最大の空港です。

同空港では、2017年2月からデジタル変革に向けたプロジェクトを推進してきました。「デジタルメンター」を採用し、ITが変革に向けたツールになるように、人材と業務を軸として「気づき」を宣伝してきました。

新しい働き方のためのPowerApps

そして、あらゆる視点から「利益」に集中するために、新しい形の働き方や業務改革を模索したところ、既存の仕事をよりシンプルにして時間とコストと紙の削減を目指すことが決まりました。

そんな取り組みの中で、2017年まで空港のセキュリティ担当を13年間務めたサミット・サイニ氏が、PowerAppsとMicrosoft Power Automateを勉強したことによりIT部門へ移動となりました。

図5

以前のヒースロー空港では、英語が伝わらない顧客に向けて、分厚いカタログを持ち歩いて案内をしていました。そこで、サイニ氏がPowerAppsでカタログの内容をスマートフォンで利用できるアプリを開発しました。次にサイニ氏は、車いす貸出の申請書類をPowerAppsで開発しました。それまでは、三枚の申請書に記入しなければ利用できなかった車いすは、申請だけで30分ほどの時間がかかっていました。その業務を電子化したことで、大幅な労力と紙の削減を実現しました。

社内でPowerAppsユーザーコミュニティを発足

ヒースロー空港では、サイニ氏の経験を現場に広めていくために、スーパーユーザを育成する制度を構築しました。サイニ氏が頂点となり、PowerAppsに精通したスーパーユーザーを育てることで、各部署でアプリを作成し、コミュニティを通してアプリを広げていったのです。

図6

IT部門のPowerAppsエキスパートは、PowerAppsのための環境を管理し、データ保護や情報セキュリティに関するアドバイスを行い、管理サイクルと手法を提供します。そして、PowerAppsの社内コミュニティの立ち上げと運営に、スーパーユーザーの育成と教育を担います。また、スーパーユーザーは、自部署内のアプリの作成と展開を推進し、古いアプリや未使用のアプリを削除するなどの管理を行います。加えて、スーパーユーザー同士での定期的な情報共有を推進します。一般のユーザーは、アプリの利用と改善点のフィードバックや問題点を報告します。

要件を知っている人が作るから早いし満足度が高い

こうした体制をもとに、ヒースロー空港ではデータ保護が必要ない低リスクのアプリから徐々に導入を始めて、コミュニティを立ち上げて学習した内容を共有する場を設けました。PowerAppsのスーパーユーザーになったマーティン・シェリー氏は「自分たちのアプリを自分たちで作れるのはすごく良い」と評価し「何ができるかわかるようになって、今では自分でアプリを修正して機能を追加したりして、同僚の満足度を高められるようになった」と話しています。

図7

現場での取り組みが活発になったことで、単なるExcelによるグラフ作成からPower BIによる分析へと発展し、データの洞察力も強化されました。PowerAppsのスーパーユーザーのアンディ・グレイ氏は「普段の業務についてはよく理解しているので、PowerAppsのようなツールがあると、可能性は無限に広がります。PowerAppsのコミュニティでアイデアを出し合って、助け合いながらアプリが作れるようになったのは誇りに思っています」と話します。

図8

PowerAppsによるコスト削減効果

ヒースロー空港では、あらゆるものを集計して数値化し、コミュニティを立ち上げ、学習した内容を共有し、IT側からもサポートし課題を解決することで、適宜ガバナンスのチェックを設けて拡大をしてきました。その結果、導入から1年で1,500万円の人件費の削減につながり、850時間の残業時間を短縮し、25,000枚の申請書類を削減しました。さらに、従来は1アプリに700万円かかっていた開発費が内製化され、5,000万円の削減に成功しました。

Hawkary製薬

Hawkary製薬は、イラクを拠点とする製薬業者で、1992年に創業し従業員は500名です。モハメッド・アルカワジャ氏は営業&マーケティングマネージャで、薬剤師としての資格も有しています。ITに関しては自己学習のみでMicrosoft Accessに触れたことがありました。PowerAppsに関してはオンライン上の資料を基に学習しました。そして、すぐにアプリケーションを作成して実利用されています。

日報をExcelで管理していた過去の弊害

Hawkray製薬では、医療関係者が訪問した日時を日報としてMR担当からもらい、営業情報とインサイトを基に分析していました。PowerAppsを導入する以前は、各訪問ごとにExcelのシートをメールで送付していました。しかし、ほとんどのシートに「日報」と書かれているため、過去のメールを基にレポートを検索することが困難でした。また、Excelだったために訪問回数や製品の提案回数などの把握も困難な状態でした。

そこで、PowerAppsでDoctor Relationship Managementアプリが作成されました。すべてのデータはCommon Data Service(CDS)で管理し、Microsoft Power Automateを活用して、通知やリマインダーとして利用しています。上長は専用のアプリでレポートを参照し、適宜指示を出します。

図10

訪問予定はカレンダー表記にすることで、分かりやすい表現も工夫しています。

図11

過去データの容易な参照や深い洞察

PowerAppsを導入したことにより、統一されたデータで意味のある参照が可能になりました。MR担当者は一番重要な医者への対応に集中できるようになり、Excelやメールベースでの報告から移行したことで、各人 月に8時間ほど業務が削減され、より多くの時間を医者と費やすことが可能になりました。また、上長は履歴も検索可能なため、大幅に業務が効率化しました。さらに、Microsoft Power Automateの自動通知やメールにより、常に最新の情報が得られるようになったのです。

DriveTime社

DriveTime社は、オンライン販売と全米での140以上のディーラーの間で、年間20億ドル以上の中古車を取引しています。2016年に、同社は16万台の車を購入しています。同社は65人のバイヤーを全国の公共自動車オークションに派遣して、何万台もの車を物理的に検査して購入しています。バイヤーは長年の経験、知識、そして勘に頼っていました。さらに彼らは全プロセスを紙に記録していました。そこで、同社はオークションでより効率的で体系的に自動車を購入するために、Microsoft PowerAppsとAzure SQL Databaseを使用して会社のオークションプロセスの合理化、自動化、および再発明に役立つビジネスアプリケーションを構築しました。

図12

予算がないから自分たちでアプリを作る

DriveTime社のビジネスインテリジェンス開発者のTravis Bleile氏は「当社はカスタマイズされたアプリを作成したいと考えていましたが、ビジネスインテリジェンスチームは、IT開発の優先順位や.NET開発の予算を確保できませんでした。そのため、チームはPowerAppsを使用して、DriveTime Online Buyerという独自のローコードWebアプリケーションを構築し展開しました」と話します。

DriveTimeの検査官は、PowerAppsで開発されたモバイル検査アプリをオークションで使用して、タップ操作で修理箇所などに点数をつけていきます。そして、特定の車両について明細化されたレポートをオンラインのバイヤーに送信します。バイヤーは、リアルタイムの検査依頼を直接モバイルアプリに送信できます。オンラインでのバイヤーは、アプリやオークションプレセールFTPフィードなどからデータを収集して、購買の判断を行います。同社では、PowerAppsによって、在庫の半分以上に及ぶ、購入方法の改善を実現しました。

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